最近感動したことがありますので、そのご紹介から始めましょう。1年ほど前から当院に通院されている男の子のお母さんですが、先月受診の際のお話。
「どうされましたか?」
「5日前から熱がありまして、最初は食べる・眠る・遊ぶは全部良かったので解熱剤(げねつざい)も使わずに様子をみていました。毎日午前中は熱が下がるのですが、午後から39度近くになりました。昨日からは午後も熱がなかったのですが、今度は咳がでるようになったので受診しました。タンがからむようで、昨晩は何度か起きましたが、背中をトントンしたら寝てくれました。今朝は起きた後にかなり咳込んでいましたが、アンパンマンのビデオをつけたら観ていました。ごはんはまだ食べさせていませんが、吐き気はないようで、水分もとれています。」
「……!うーん、……!すごい……!」
当院を受診されるお母さん方には、このようように的確な経過報告をされる方がかなりおられます。ですからそのこと自体は決してすごいことではありません。
ではいったい何がすごいのでしょうか。じつは、このお母さんも1年前は、平均以上に相当な心配性でした。こどもさんはけっこうきげんも良いのですが、発熱のたびに必ず通院してこられました。午前中受診されて、午後に体温がいっそう上昇したということで、1日に2度の受診もありました。それが1年後には、39度の発熱でもあわてなくなった、その進歩がすごいといえるでしょう。
何が彼女をこれほどの肝っ玉母さんに変えたかといえば、毎回の通院の中で、こどもの病気に対してわれわれプロと共通の「目」を彼女がマスターしたからに他なりません。こどもの病気のおかげですばらしい学習をしたといえます。ころんでもただでは起きるな、といつも私がくり返しているのもそういう意味です。
プロの目というのは何か。それは私がくどいほど、保護者の方に説明しているたった一つのこと、
すなわち、 「食べる・眠る・遊ぶ」の3拍子が病気の程度を判断するのにもっとも大切、という原則を正確に運用できるようになったことです。この原則はふくろう通信2号(H9,2)にくわしく説明してあります。
ただしこれまでにも説明してありますが、この原則にはいくつかの例外があります。
- 対象は急性の病気に限る。
慢性疾患でも最後のどたん場になると、この原則が使えます。 - 生後3~4ヶ月未満の乳児は除く= 首が座るまでは、例外扱いをする。
新生児や首が座る前の乳児が発熱をした場合には、一見元気がよさそうでも、検査をしたほうが無難です。 - 寝たきりのお年寄りや、発達に障害 のあるハンディキャップの人も除く。
たとえば脳性麻痺など重度の障害が あると、発熱すなわち肺炎や敗血症などのことが多く注意が必要です。 - 予防接種の可否を判断する基準には ならない。三拍子が良くても、手足口病などの後は、1ヶ月あける。
- 学校伝染病などで出席を禁じられて いる期間の判断は、三拍子とは別物。
さて、このような例外を承知していれば、この原則はきわめて有効です。たとえば、
- 発熱していても食べる・眠る・遊ぶの三拍子が揃って良ければ、入浴可。
- 三拍子が良ければ、翌日まで待てる。 夜間急患センターに行かなくて良い。 逆に発熱はたいしたことがなくても、三拍子のうち2つ以上悪いときには、その日のうちに受診しておく。
体温計を見て行動してはいけない。体温の絶対値(発熱の程度)は、病気の重症度とまったく関係ない。 - 血便や白色便などを見ても、三拍子 が良ければ、その場でさわぐ必要な し。ゆっくり受診で良い。
- からだの病気だけでなく’心’の異 常にも使える。三拍子が悪い場合は ‘心’の異常でも重症=長引く。