医学部の臨床実習で精神科をローテートしていた時のこと。友人のN君と担当することになったのが統合失調症の男性患者さん。
卒業後の希望は私が精神科医。N君は内科の循環器専門医でした。
私:N君、今度の患者さんは罹病(りびょう)歴が数年のつわものだってよ。大丈夫?
N:びびるな、びびるな。話せば分るはずさ。
私:こんにちは、今週、担当させていただく、私IとNです。
患者さん:おお、来たね、来ましたねエ、お待ちしてましたよオ。
N:いやあ、その節はどうも。ご無沙汰しています。
患者さん:これは驚いた。学生さんとは今日が初対面じゃあないの?
N:は、いやあ、どこかでお会いしたような気がしたもんで。
患者さん:あっそう?まあ、まあ、そんなことはどうでもいいんだ。楽にしてよね。ところで学生さん、どこの出身?
N:はあ、自分は北海道の網走出身です、中学卒業まで。
患者さん:と言うと、高校は別の土地?
N:はい、そうです。高校は東京の○大附属高校で。
患者さん:ほうほう、ちょっと進路を南に、南下しましたね。
N:はい、ちょっと南下しましたです。
患者さん:それで、大学は長崎ってわけね。
N:そうです。長崎までやってまいりました。
患者さん:それはご苦労さん。しかしずいぶん南下しましたねエ。
N:そうであります。ずいぶん南下してまいりましたです。
患者さん:そうすると、学生さん、あんたは脳軟化というわけね。
N:は、はあ…?
私:ハアッハッハッハアー、あっ、失礼。ハハ、どうも。(病棟実習を終えて帰りながら)
私:やられちゃったね。
N:ああ、やられた。参りましたよ。
私:誘導尋問って、気づかなかったね。
N:ああ、気づかなかったな。マズッたな。
私:相手が上だったよね。
N:どうやらケタ違いだったな。
卒業後、私は小児科医となり、N君は普通の内科医となりました。