ふくろうブログ

1997.04.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 1997年4月(通算4号)

クリニックの隣の庭にもハナミズキの蕾が見られます。
桜の方は、連日の長雨で早ピークも過ぎたようです。
もうすぐ新学期。毎年のことながら新入生がランドセルに押されるようにチョコチョコと並んで歩くのをみると心がうきうきします。
なるべく外にでましょう。いま春の真ん中!

こどもの病気の診かたと看かた③―どんな時に受診すべきか

ハナミズが出だしたので、小児科に連れていったら、「この程度で受診する必要はない」と言われた。かと思うと、咳がでていて少し機嫌が悪かったので、たいしたことはなさそうだけど「念のために」受診したところが、「随分悪いね、もっと早く連れて来なくっちゃ」と言われてあわてた。夜、急に39度も発熱したので急患センターに駆けつけたところが、座薬の解熱剤しかくれなかった、etc、こんな経験はありませんか。病気で受診したのに叱られたのでは、悲しくなりますね。 そこで、どんな時には急ぐべきか、あるいは翌日でもいいのか、あるいは家庭でどこまで見ておれるのか、その基準をご紹介します。

1.食う・寝る・遊ぶの3つとも悪い → 時間にかかわらず、ただちに受診
2.食う・寝る・遊ぶの2つが悪い → なるべく当日中に受診
3.食う・寝る・遊ぶの1つが悪い → 翌日の受診で大丈夫のことが多い
4. 食う・寝る・遊ぶが全部普通 → とりあえず家庭で観察、
ただし、4日目 を過ぎても同じ症状がだらだらと続く場合には、受診しておく方が無難。
小児の急性感染症では、4日目を過ぎると下火に向かうことが多いからです。

編集後記

春眠暁を覚えず、わがフクロウ氏は、診察中も昼寝をむさぼっております。今回はアトピーのお話を漫談ふうに仕立て上げてみました。内容は、結構難しいのですが、診察中に時間がとれないため、説明の代わりに御一読下されば幸いです。バックナンバーご希望の方は、受付けまでお申し出下さい。 (文責 一木貞徳)

アトピー性皮膚炎についての鼎談(ていだん)その①

出席者:藪野フクロウ(小児科医)
肥やし家かつぎ(相手かまわぬ毒舌が売りのお笑いタレント。
ふだんは関西弁、ときどき筑豊弁が飛び出す)
甲斐乃カク (20歳位。自称アトピー性皮膚炎患者で、多少舌足らずで、
突然、あやしげな東北弁で喋り出す ことがある)

肥やし家かつぎ:コンニチハ、今日は、藪野先生にアトピー性皮膚炎のお話を伺おうと思うて出てきまして ん、藪野ゆうたら何や薮医者を連想しますねんけど、お会いしてみたら、想像どうりの薮の顔やねん。 わてもうビックリしましてん、先生ホンマ患者さん診てはりまんのん?

藪野フクロウ:いきなりのご挨拶痛みいります。小児科医になって20年、前半10年は薮医者、後半10年 は 大藪や、ナーンテとんでもない、昼間居眠り、夜は酒で酔眼もうろう、ナーンテさらにとんでもない、実 際は、昼も夜も、毎日毎日徹夜で熟睡、ナナナーンテさらにトンデモありません。頭の中は勉強・努力・ 学問でギッシリ、食わない寝ない(例外は3回くらい?)遊ばないでヒタスラ勉強、ただそれだけの20年 でありました(子どもが3人、ウーム!)。顧みれば長男がアトピー、次男もアトピー、最後の娘だけツル ツル肌で、わが家は1勝2敗でしたね。ちなみに男子2人は気管支喘息、副鼻腔炎もあり、さらにときど き蕁麻疹も出し、お勉強に対するアレルギーまであって、あれもこれも世の中のアレルギーは、兄弟2 人でゼーンブ背負ってきたように感じております。というわけで止む無く不肖この藪野もアレルギーの勉 強は、熱心にやってきたつもりでおります。

甲斐乃カク:セーンセー、ワタシねー、もの心ついたときからズーットあちこち掻き続けてきたのよ、ワタ シが小さかった頃は、お祖母ちゃんが掻いてくれてたのね、それでわが家は、孫の手と言わずにババの手 と言ってたんだって。ワタシの夢は、結婚したらダンナに掻いてもらって、子どもができたらそれに掻か せて、孫ができたらそれにも掻かせて、それでようやく孫の手も完成ってわけヨウ。

肥やし家かつぎ:チョット、あんたは黙っとってええがな。今日は、わてと先生の対談なんや、よけいなこ と言わんといて欲しいなあ、ホンマに。

藪野フクロウ:いやいや千客万来、お客様は神様です。ご意見ご批判、ケチ、インネン、イイガカリ何でも 結構、ありがたく頂戴仕る、ハハー。

肥やし家かつぎ:どついたろか、ホンマに。今日はアトピーの話言うてるんや、早う始めたらんかい。

藪野フクロウ:冷静に、冷静に。今日は、科学的な話をする筈でしたな。では早速。そもそも世間の皆様は、 アトピーと聞くと大変なリアクションを示されるが、この薮野の考えでは、少なくとも4点ほど皆さんの 理解の仕方に間違いがあるようです。

甲斐乃カク:ワー、間違い4ツ探すのネ、それってバリ楽しそう。

藪野フクロウ:まずその①赤ちゃんの顔や体に湿疹のような病変が見られたら、ミソもクソもすべてアトピ ー性皮膚炎と思い込む傾向がありますが、これは間違い。

甲斐乃カク:セーンセーは、お味噌とクソの区別がチャーンとできるのネ。

藪野フクロウ:もちろん、それができるのが小児科医としてのミソです。あとのほうは、肥やし家さんの専 門なのでは?

肥やし家かつぎ:ワテのことはほっといてんか。勝手にかつぐんやナイデ。

藪野フクロウ:赤ちゃんの湿疹の中には、アトピー性皮膚炎以外にも、脂漏性湿疹や、お風呂で洗いすぎた ための一時的な皮脂欠乏、単なる乾燥肌、母乳によるニキビ、ヨダレによるかぶれ、など多くの非アトピ ー性湿疹が含まれるのです。アトピー性皮膚炎と診断するために、私藪野は、(1)典型的な屈曲部の病変 を認める、(2)苔癬化病変の有無、(3)全身病変の有無、以上3点を診断基準に採用しています。この基準 は、小児科医の基準よりもむしろ皮膚科医の基準に適合しています。小児科医は、家族歴を重視する人が 多いようです。その②、実際にアトピー性皮膚炎と診断された時に副腎皮質ホルモンの外用剤(いわゆる ステロイドの塗り薬)を使おうとすると、まるで毒でも塗るような過敏反応を示す方がおられますな。あ れは、毒ではなくて、ちゃんとした薬なんです。

肥やし家かつぎ:せやけど、ステロイド言うたらこわいんとちゃうねん?

藪野フクロウ:だからきちんと、計画的に使わないといけません。そしてステロイド剤の内服は、アトピー 性皮膚炎に対しては、特殊な例を除いて使いません。一般にステロイド剤は、理由の如何を問わず、最初 に使い始めたドクターに以後のすべての責任があると言われるほど、初期の使い方および患者さんへの 指導が重要なのです。それとあまり知られていませんが、アトピー性皮膚炎の患者さんの半分は、その長 い経過のどこかで、民間療法に走っています。ところがこの民間療法の実に9割が、密かにステロイド剤 を使用している、というデータがあるのですよ。
肥やし家かつぎ:ほとんどサギやねん。

藪野フクロウ:言い換えれば、それだけステロイド剤が有効で、各種の民間療法の側でも、それを認めてい るからこそ、こっそり混ぜているわけですね。

甲斐乃カク:ステロイドって使い方が難しい薬やけんど、ちゃーんとセーンセーの指導どおりに使っとった ら、大丈夫なわけネ。

藪野フクロウ:そういうこと。で、その③、アトピー性皮膚炎と言うと、直ちに食物アレルギーのみを考え るようですが、これも間違いです。

肥やし家かつぎ:フムフム、面白うなってきたわ。

藪野フクロウ:そもそもアトピーという言葉は、先天性のアレルギー反応を示す体質というような意味です。 で、そのアレルギーという言葉は、元来は、変わった反応という意味だったのですが、今日では過剰な反 応を意味するようになってきました。この場合の過剰反応は、何に対しても見境なくというものではなく て、ある特定の原因に対してのみ過剰に反応する、というものです。これが抗原特異性と言われる現象で す。つまり、もしアトピー性皮膚炎が、100%食物のアレルギー反応で説明がつくのであれば、何か特定 の原因に対してのみ湿疹を生じるわけですから、その原因を除いてやれば事は済むわけですね。

甲斐乃カク:ワタシ知ってる、三大アレルゲンって、卵、牛乳、大豆なんでしょ。

藪野フクロウ:アトピーを自任するだけあって、さすがに詳しいですな、アレルゲンなんて難しい専門用語 をご存知で。

甲斐乃カク:ハアー、あんまりワダスが掻ぐもんだで、バッチャが、「これ、カク、そっただ掻いてはナン ネダ、早えとごズッパリ掻ぐのさやめてケロ」なんていづも言ってタダアー。牛の乳ば飲んだあどなんが、 いづもかゆぐでかゆぐで、たまんねがっただなっす。とうとうある時だったすけ、病院のセンセが、まん ず牛の乳ばズッパリ止めろって言いなざった時は、さすがにワダスも悲しぐで泣げちまっタダア。

藪野フクロウ:それがすなわち、抗原除去という方法ですな。抗原というのは、自然界にあって、われわれ にとっては、異物として捉えられるものを指す言葉ですが、それがアレルギー反応をひきおこす場合に、 その抗原をアレルゲンと呼ぶのです。それで、アレルゲン除去とも言います。さて、Aさんは卵白でアト ピーがおこり、Bさんは牛乳、Cさんは大豆が原因というようにはっきりと原因が判明すれば、その原因 物質と関連食品を食事中から除くだけで解決する筈ですね。実際そういう患者さんもいるわけですが、そ うじゃない患者さんがこれまた多数いるわけなんです。

肥やし家かつぎ:そないな時にはどないしたらええのん?

藪野フクロウ:原因物質を探る方法としては、血液中の免疫グロブリンE(IgE)をはかるのです。IgEは、 即時型抗体といって、血液の中を流れているだけでなく、血管周囲や皮下組織や気管支平滑筋の下に潜む マスト細胞という、とてもイヤーナ細胞の表面にきな粉のようにまぶされています。マスト細胞の中には、 ヒスタミンなどのイヤーナ物質が、たっぷりと貯蔵されているのですね。いま外から気管支や血管を通っ て、体の中にダニの死骸やハウスダスト(家屋塵)が侵入してくると、これらのアレルゲンは、マスト細胞 表面のきな粉、つまりIgEにくっつきます。すると、マスト細胞は、ヒスタミンなどのイヤーナ物質を細 胞の外に放り出すのです。これらの物質がかゆみや浮腫や、気管支の収縮をひきおこすのです。マスト細 胞の表面のIgEは、卵白専門、ミルク専門、ハウスダスト専門など、個々のアレルゲンに対する分担がは っきりしていますから、これらを別々に測定できるのです。すなわち即時型抗体であるIgEにも抗原特異 性がみられるわけです。また、個別にはかるだけでなく、全体のIgEの量を総IgE量としてはかることも できます。

甲斐乃カク:もうだめ、ワダス、セーンセーのハナス、とでもついでいげないっす。

藪野フクロウ:読書百遍意自ずから通ず、と申します。くり返し聞いたり、読んだりすれば、そのうち常識 になるのです。いまお話したことなんか、そのうち高校の生物あたりで習うようになりますよ。とにかく 原因は食べ物だけではないのです。

肥やし家かつぎ:食べ物であっても、それ以外の物質であっても、つまりは、血液検査でアレルギーの原因 が分かれば、それを環境や食事から除けばええのんやね。

藪野フクロウ:そう簡単にいかないのが、アトピー性皮膚炎の厄介なところなんですな。実は、その④、ア トピー性皮膚炎の患者さんでは、アレルギー反応、すなわち即時型抗体であるIgEの異常だけでなく、皮 膚全体のバリアー障害があるということが、最近知られるようになってきたのです。皮膚表面のバリアー としては、セラミドという燐脂質の膜があるのですが、それだけではなくIgEの仲間の免疫グロブリンA (IgA)という物質が、血液からしみだしてきて皮膚全体を覆っているのです。正確に言いますと、血液の中のIgAとは、少し構造が違っていて、分泌型IgA(sIgA)と呼ばれる物質です。この分泌型IgAは、皮膚 表面だけではなくて、母乳中や唾液、涙液、消化管の内側、気管支粘膜など空気と触れ合う面に分布して います。では、この分泌型IgAがどのような役割を果たしているかと言いますと、いろいろな細菌や真菌 (カビ)などの微生物による攻撃から、皮膚を守っているわけですな。

甲斐乃カク:ますます分からんようになってきた。わたし、頭破裂しそうやわ。

藪野フクロウ:ズーズー弁はもうおしまいですか。

肥やし家かつぎ:皮膚を保護してくれるバリアーには、セラミドとかいう化学的物質と、分泌型IgAという 生物学的なものと両方がある、とこういうわけやねん。

藪野フクロウ:さすがは、肥やし家さん、口は悪いが、頭はしっかり肥やしが効いておるようですな。その 通り。で、その分泌型IgAの量が、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、大変少ないということが分かって きたのです。もともと、アトピー性皮膚炎では、とびひや、水いぼ、帯状ヘルペスが出来やすい、という ことが知られていたのですが、長い間その理由がわからなかったのです。アトピーの患者さんでは、皮膚 が荒れているから2次的にこういうものができやすいのであろう、と漠然と考えられていたのです。とこ ろが分泌型IgAの量が少ないということになると、話は全く違ってきます。分泌型IgAの量が少ないと、 本来はいないはずの黄色ブドウ球菌(とびひの原因菌)が増殖してきます。黄色ブドウ球菌は、アトピー性 皮膚炎を悪化させます。悪化させるだけでなく、その成立(発症)にも関係しているらしいのです。分泌型 IgAの量は遺伝的に決定されているので、これが少ないということはとりもなおさず、アトピー患者では、 アレルギー反応とは別に、生まれつき皮膚のバリアー機能に異常がある、ということになるわけなのです。

肥やし家かつぎ:だんだん面白うなってきたわ。せやけど時間切れや。この続きはまた来月聞かせてもらう よって、それまでよう寝ときや、フクロウのおっチャン。

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