ふくろうブログ

2000.03.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2000年3月(通算39号)

インフルエンザもようやく終了しつつあります。この冬は、当院でもインフルエンザ脳炎(幸いに完治しました)や30分以上もつづく熱性けいれん(けいれん重積)などで、救急車をお願いする患者さんが多かった印象があります。今、戸外ではあちこちですでに彼岸桜が満開。まだときおり寒さが戻るようですが、それでも季節は確実に春の息吹きを運んでくれます。さて例年ですと今頃は花粉症の季節ですが、西日本では、今年はスギ花粉の飛散量が少ないとの情報です。最近の主な病気は、嘔吐下痢症、水痘、溶連菌感染症です。

こどもの病気の診かたと看かた(32) からだの調子を”聴く”ということ

大学時代の友人で、イタリアのスポーツカーに乗っている人がいます。入学時から髪がうすくて貫禄があり、仲間内では「教授」と呼ばれていたのですが、一昨年会った時には真っ黒のふさふさ髪にヘンシーン!していました。車体色も真っ黒で、一見そのスジの若者風です。ところで問題の車、実体はどうでしょうか。

「修理が終わって、やっと乗れると思ったらまた故障やけんね。イタ車はやめた方がいいよ。どれだけ泣かされたことか。こいつは今まで、うちのガキより故障が多い。とくに土日。さあ、今日はドライブでも行こかねー、って計画するやろ。そしたら故障するっちゃね。いつおかしくなるかわからんけん、いつも冷や冷やしながら運転しよっと。音だけでかくてトロトロ運転。スピードが出せんスポーツカーたい。アホくそうて笑えるっちゃが」(いったいどこの言葉でしょう?)

ところが、文句を言いつつもよほど愛着があるのか、いっこうに買い換える様子もなく、修理を重ねて乗り続けているようです。実は「教授」の初代マイカーは大型国産車で、その頃は有事故多違反の常連だったようです。しかし、くだんのイタ車に替えてからは、いたわりつつ乗るお蔭か無事故無違反多故障とのこと。

「そりゃあ古女房といっしょや。いわゆるひとつの腐れ縁やね」と私はあくまで中立的。実は「教授」の奥さんもこどもさんも病気がちなので、故障の多い愛車にも情が移ったのでしょうか。そのスジ風な外観と違って、「教授」は優しいのです。

以上のことは、車だけでなく、健康についても当てはまるようです。体力・健康に自信のある人は、けっこう無茶をしてしまいがち。元気そうに見えていた人がある日とつぜん神様のもとへ、などという話は決して少なくありません。反対に、あっちが痛い、こっちが悪いと絶えず騒ぎまくっている人ほど長生きです。体力に自信のない人は、自分のからだについての敏感な「耳」を持っていて、絶えずからだのサインを聴いているようです。痛みやシビレは注意信号なのです。

私たちのからだは、車と違って、どの部分をとっても簡単に取り替えることができません。取り替えないと助からないような病気の場合のみ、臓器移植の対象になるわけですが、そういう特殊な場合を除いては、生まれた時のからだと最後まで付き合っていくしかありません。人体は車などよりずいぶん厄介な乗り物です。

なぜ厄介なのか?車は完成されたモノとして発売されます。新車なのにしばしば故障したら、それは欠陥車か、乗り方に問題があるか、とにかく異常です。

ところが、人は生まれた時はまったくの欠陥車状態。故障するのが当たり前です。 ただ、それでは命がいくらあっても足りないというわけで、何とか離乳食が食べられる頃までは母体から引き継いだ免疫によって守られているのです。

問題は生後半年。この頃までに、母親から受け継いだ虎の子の財産はすっかり目減りします。それまでほとんど病気をしなかったこどもが、別人のように病気のオンパレードになることがあります。病気がメドレーで次々とやってくるのです。 ここに成人と異なるこどもの特徴、よく故障するという特徴が明らかになります。

しかし、車の場合には、いちど故障して修理するともはや新車には戻れず、価値は下がる一方ですが、人体の場合には、故障を繰り返すほど価値が上がるというありがたい特徴があります。ひとつの病気を経験することによって、その病気にはかからないか、かかりにくくなるという学習効果があるからです。

この学習能力は、どのような高性能コンピュータでもまだ再現不可能なものです。

人類は長い進化の歴史の中で、数多くの伝染病(現在の医学用語は感染症)と闘い、これを乗り越える工夫を積み重ねてきました。ヒトが今日の免疫能力を獲得するまでには、数百万年におよぶ人類進化の歴史がインプットされています。アフリカの原人もピテカントロプスも含めて無数の人命を賭け、試行錯誤を繰り返し、ようやく現在の免疫システムを整えることができたのです。

この学習能力は免疫システムが正常にはたらくかぎり、一生にわたって続きます。この能力がほぼ成人と同じレベルに達するのは、だいたい6歳~7歳頃。 次号のテーマは、「6歳という年齢が意味すること」です。

お知らせ

3月18日(土)は休診です(19、20も連休)。喘息や鼻炎でお薬をけいぞくされて いる患者さんは残薬を確認され、前日までに受診をお願いいたします。

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