ふくろうブログ

2000.04.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2000年4月(通算40号)

満開の桜の中、新学期が始まりました。長期予報では4月、5月とも寒暖の差がはげしいお天気だとのこと。恒温(こうおん)動物であるヒトは、自然の環境が変化しても、からだの状態を一定に保とうとします。環境の変化とは温度、湿度、気圧など物理的変化のほか、細かいチリ、土ボコリ、動物の毛、フケや、花粉量の増減など、空気の質の化学的・生物的変化も含まれます。汚れた空気、冷たい空気、乾燥した空気など、常に変化する自然環境に適応し、一人ひとりのからだに合ったきれいな空気を作り出しているのは、はな、副鼻腔(ふくびくう)、のど、気管支などの呼吸器官です。季節の変わり目には、呼吸器の調子がおかしくなりがちですが、それはからだの内部環境を守るためにさけることのできない、恒温動物としてのヒトの宿命なのです。

こどもの病気の診かたと看かた(33) 6歳児の意味

多くの国では、6歳に達すると小学校に入学します。成長曲線では、この年齢は、直線状に身長が増加していて、一見すると変化の少ない、無風のように見える時期ですが、からだの中では眼に見えない大きな変化が進行しています。

からだをコントロールしていく上でもっとも大切である、大脳の機能がほぼ完成するのが、5~6歳頃といわれています。入学前後で比較すると、この時期に、こどものからだに起こっている変化がよく分かります。

①”かぜ”をひきにくくなる。寝冷えをしにくくなる。
②周期性嘔吐症(自家中毒)や低血糖などの代謝異常が減ってくる(ストレス耐性の獲得)。
③熱で”ひきつけ”やすいこどもでも6歳を境に熱性けいれんを起しにくくなる。
④インフルエンザにかかったときに、合併症の急性脳炎・脳症を起すのは5~6歳未満に多い。
⑤扁桃(へんとう)は7歳で最大に、アデノイドは6歳で最大のサイズになる。

もちろん、不利な面が減るばかりでなく、6歳を境に、有利な面も失われます。

① 6歳未満のこどもの脳は復元力(元に戻る能力)が高く、事故や病気で脳に相当なダメージを受け、脳波上は”脳が機能していないのではないか”と思えるようなケースでも、わずかな後遺症だけで回復してきた例や、まったく元どおりに回復した例があるとのことです。

② 絶対音感や多くの外国語を習得できる可能性は6歳頃まで残るといわれています。 もちろん、中学校に入ってから外国語の勉強を開始しても、不自由しない程度に使えるよう にはなります。しかし母国語と同じように使えるためには、その言葉で思考する必要があり、 思考方法を規定する言語はただ一つしかないと考えられています。つまり、ふつうでは、母 国語は一つなのです。音楽についても、天才は例外なく絶対音感の持ち主といわれています。

ちなみに、成熟したチンパンジーの知能指数は人間に換算すると、6歳児相当ということですから、幼稚園までのこどもさんは、かなりカシコソウに見えても、親チンパンジーにはまだかなわない、というわけです。

さて、以上のことを大脳生理学的にながめ直すとどうなるでしょうか。人間の脳には、神経細胞のネットワークが急激に増える時期が4回あるといわれています。

生後3~10か月 (くびが坐る頃から、独り立ちまで)
2~4 歳 (成人文法性を獲得する時期、三つ子の魂)
6~8 歳 (基本的な生活習慣を身に付け、同年齢、あるいは異なる年齢 のこどもと、遊びの乱取りげいこを始める時期)
10~12 歳 (自分というものに気付き、親をも相対的に見始める時期)

人間としての大きな節目となるこのような時期に一致して、あるいはそれに少し先んじる形で、脳細胞のネットワークが形作られているわけです。

パソコンに新しいソフトを、ご自分でインストールされた経験をお持ちの方も多いと思います。例えば、ウィンドウズ98という基本ソフトをパソコンに組み込むと、長い時間のあとに「ウインドウズはセットアップを完了しました」というメッセージが画面に現れます。セットアップ完了とは「使える用意ができましたよ」ということ。

人間は、大体6歳頃にセットアップが完了する動物である、と言えます。 幼稚園・保育園の頃には毎月どころか、毎週のように病気をしていたこどもさんが、入学後は、不思議なくらい病気をしなくなります。入学する6歳に達して、初めて、いろいろな意味で、誰もがスタートラインに立てたと言えるのでしょう。

つまり、入学までは病気をするのは仕方がない、こどもというものは、病気をくり返し経験して成長するものだ、と思っていたほうが、精神衛生的にも楽です。 だからこそ、からだの方も、扁桃(口から侵入する病原体を食い止める)や、アデノイド(はなから侵入する病原体を止める)という見張り番を用意してくれているのです。病気をしても悲観しないように。コジレなければよし、と考えましょう。

お知らせ

木曜日午後の診察がこれまでの喜多山 昇先生から広田 修先生に交代しました。広田先生は3月まで4年間、和白病院小児科部長としてご活躍された方です。和白病院小児科には、当院の受付時間外の診療や2次医療の必要な患者さんの入院をたびたびお願いしており、広田先生にはずいぶんとご尽力をいただきました。また2年4ヶ月間、福岡大学病院から通っていただいた前任の喜多山先生には、心から感謝申し上げます。和白病院小児科の新部長として、引き続きよろしくお願い申し上げます。火曜日午後の診察は陳 昭澄先生の担当です。なお、5月からは、火曜日午後が広田先生、木曜日午後が陳先生と入れ替わります。ご了承ください。

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