ふくろうブログ

2001.09.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2001年9月(通算57号)

季節の変化が急でジェットコースターに乗っているようです。からだのシステムが完成する前の乳幼児と、システムが耐用年数に近づいたお年寄りは、わずかな天候の変化でもついていけず、簡単に体調を崩しやすくなります。システム自体が異常なアレルギー体質の方も季節の替わり目は要注意。天気予報に気を付けましょう。

こどもの病気の診かたと看かた(58)お魚由来の食中毒

今年の夏は、聞きなれない名前が新聞を騒がせました。
ビブリオ・ブルニフィカス(Vibrio vulnificus)
私は、鉄の戦車に乗った古代ローマの格闘技やさんを想像しましたが…。

実はこれ、沿岸の海水にはどこにでもいるビブリオ菌の一種で、水温の上昇する夏期に海水中で増殖して、魚介類を汚染します。

特徴は予想どおり鉄が好きなこと。貧血で鉄剤を内服している人や、鉄代謝がおかしくなって鉄の血中濃度が高い肝臓病の人が、この菌に汚染された魚介類を生で食べると、菌が全身に回り、敗血症となります。

とくに血液の流れが良くない下肢には、この菌が定着しやすく、広い範囲に筋肉の炎症を起こします。そこから大量の菌がばらまかれ、全身状態が急速に悪化して、診断がついた時には手遅れのことが多いのです。肝臓病の人、貧血治療中の人は、夏は魚介類の生食いにご注意ください。

こどもの病気の診かたと看かた(59)二学期早々に疲れるこども

例年、2学期が始まって数週間すると、立派な体格なのに異常にきつがるこどもさんが増えてきます。とくに小学校高学年から中学生に多いのですが、体がぐにゃぐにゃ状態で診察中もまっすぐ座れないほどです。

朝起きられない、午前中は食欲がない、授業中に机にうつぶせになってしまう、吐き気がする、顔色が悪い、わずかな時間でも立つとめまいがする、しょっちゅう立ちくらみがする、そして…、夕方から夜はメチャメチャ元気。毎日これのくり返し。日曜日は元気。

こういう体質を起立性調節障害(きりつせい ちょうせつ しょうがい)と名づけています。自律神経失調症のひとつと考えられます。

前の晩に、「明日は絶対起してよ、遅刻したらおおごとなんやけん」などと神妙に言いますが、朝になれば空約束だったことが分かります。母親が枕元で何回声をかけても、生返事だけで、起きてくることはまずありません。それどころか、悪態をついて、ふとんにしがみつき抵抗します。

こういう子どもさんをふとんから引きずり出すにはコツが要ります。まず目の上に冷たいおしぼりをどさっと置きます。次に、両方のふくらはぎをしっかりつかみギュッギュッとくり返し握ります。しっかり握っていないと相手も必死で抵抗するので蹴られます。

朝から親子で激しい戦いですが、程度のひどい起立性調節障害の子どもさんでは、そうならざるを得ません。起きられないために遅刻を重ねて、とうとう不登校になってしまうことさえあるからです。

もちろんそういう荒ワザを行使しても異存はない、ということについて、本人が冷静に判断できる時に、親子で十分話し合っておくことが大切。 

母親に悪態をつく子どもさんに対しては、父親の出番です。「おまえのために、お母さんが毎朝やってくれているのだから感謝しろ。お母さんに文句を言うなら、お父さんが起こそうか?」と穏やかに言います。体格で父親の方が勝っている年齢までに、存在感を示しておきましょう。

その子どもさんが現在もっともハマッている趣味の話題を耳元でくり返すのも効果的。ノルアドレナリンがたくさんでるとサッと起きられます。

どういう関わり方をするにせよ、両親は自分のために一所懸命に対応してくれている、と確信できればこどもは悪態をつきません。両親の連携がとても大切という意味で、これは親が試されている病気なのです。

あとがき

二泊3日の小児精神医学教育セミナーが大阪であり、昨年につづき参加してきました。これから児童精神医学の勉強をめざす若い医師の方々と深更まで議論するのは、新しいエネルギーが得られて、とても楽しい経験です。煮えかかっていた脳ミソもシャキっとなりました。

そろそろ気管支喘息と鼻炎の季節。アレルギーの方はご注意ください。とくに季節性鼻炎で秋期に症状が必ずでるという方は、毎年その症状が出始める2週間前から、抗アレルギー薬を予防内服しておくと、症状の軽減が期待されます。近くの耳鼻科でご相談されてはいかがでしょう。

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