ふくろうブログ

2002.05.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2002年5月(通算65号)

5月後半になってようやく五月晴れのお天気になりました。今年は梅雨が早く始まりそうですが、建物の中で湿気の多い押入れや下足箱の中、浴室、洗濯槽の中などは、かびがつきやすい場所。とくに個室のお子さんでは、部屋のそうじも忘れがちです。喘息やアレルギー性皮膚炎などの予防には環境整備が大切。気をつけましょう。

こどもの病気の診かたと看かた(76)精神の病の映画について

連休中に、「ビューティフルマインド」というアメリカ映画を観ました。
天才的数学者が、大学院生のときに精神分裂病(現在は、統合失調症という病名)を発症し、病気と闘いながらも「均衡理論」という画期的な学問を組み立て、1994年ノーベル賞に輝くまでの実話にもとづく物語です。

統合失調症に特徴的な、がんこな妄想(もうそう)に主人公はとりつかれます。その内容は他者にはまったく了解不能ですが、本人にはそれが病気であるという認識(病識)がまったくなく、他人にはどれほど不条理な内容であっても、妄想どころか、本人にとっては現実そのものなのです。

したがって理性でコントロールするという試みは通用しません。

映画では、インスリン昏睡(こんすい)療法(低血糖を人工的におこさせて昏睡状態にさせる)や、電気けいれん療法などの場面があります。有効な抗精神病薬のあいつぐ出現で、インスリン療法は廃れてしまいました。一方の電気けいれん療法は、米国などで現在でも実施されています。

今日では、多くの有効な抗精神病薬の登場で、統合失調症の患者さんが半永久的に閉鎖精神病棟で過ごすという時代は過去のものになりました。外来通院をしながら家族や他者とともに人生を過ごす患者さんが増えています。それは医学の進歩がもたらした大きな恩恵だと思います。

精神が分裂してまったく別の人格になったのではなく、同一人格の中で、全体を統合しているメカニズムがうまく働かない(失調状態)ためにおこるさまざまの社会的不適応、それが統合失調症という新しい病名に表されています。この病気もまだ本当の原因は解明されていません。

精神の病気に対するさまざまの偏見をとりはらうためにも、多くの方々に「ビューティフルマインド」を観てもらいたいと思います。

こどもの病気の診かたと看かた(77)声にだして読みたい病気

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎):あたまか、たまか、はたまたはら
→ 合併症は頭(無菌性髄膜炎)、玉(のそばにある副睾丸炎)、腹(膵炎)が多い。ほかに耳(神経性難聴)、乳(乳腺炎)、甲状腺炎など。
おたふくかぜは、合併症が多く有効な治療薬がない病気です。

みずぼうそう(水痘)と天然痘:夜空の星、満開の桜
→ どちらの病気も水疱が皮膚に生じるので一個ずつを見ると鑑別が難しいことがあるが、水痘の発疹はいろいろの時期の発疹が混じるために、夜空の星(一等星~十三等星まで)に例えられる。天然痘では赤い斑点→水疱→膿疱→痂皮と一斉に変化するので満開の桜となる。
天然痘は絶滅され、今日ではすっかり過去の病気となりました。

プール熱(咽頭結膜熱):ちょっと泳いでさあ大変。5泊6日のしつこいお熱、目はれ、のどはれ、首もはれ。
→ 夏に多い、アデノウイルス感染症の高熱バージョン。プールだけでうつるわけではないが、病名にひっかけて覚えやすくしている。
5日間続く高熱、結膜炎、化膿性扁桃炎、頚部リンパ節炎など。

川崎病:たらこ唇、真っ赤なお目め、ブツブツいっぱい、ノドもはれ、手足パンパン、首もはれ、高いお熱で、薬も効かぬ。
→ 幼児期に多い原因不明の病気で、ガンマグロブリン療法が有効です。

こどもの病気の診かたと看かた(78)父性について

ときどき予防接種をいやがるお子さんに、「そんなに泣くなら、打つのか打たないのか、あんたが決めなさい」とおっしゃる方がおられます。
しかし、年齢の低いこどもさんの場合には親が決める必要があります。
かわいそうだから今回は見送りという態度は、結果的にはこどもを感染症から守れず危険な目にあわせるでしょう。
決めるときはピシっと決める。これを父性といいます。
予防接種の受けさせ方で、保護者の父性を推し量ることもできるのです。

あとがき

保険金にからむ事件が話題になっています。医学のプロとしての知識を駆使した事件ですが、同じ技術を良い方向に使えば、豊かな人生を歩むことができたはずで、残念でなりません。「同じ川の水を飲んでも、牛は乳を作り蛇は毒を作る」という言葉があります。私が小児科医として提供できるものはわずかですが、こどもたちとご家族に専門的な援助ができることは心からの喜びなので、これからも知識と技術の修練に努めたいと思います。

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