ふくろうブログ

2003.05.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2003年5月(通算77号)

風薫る新緑の季節になりました。道を歩いていると、鯉のぼりの泳ぐそばでお母さん方が赤ちゃんを抱っこして楽しそうにお話している風景に出会います。これから梅雨入りまではおだやかな天候がつづき、草木とともにこどもたちも大きく成長します。

こどもの病気の診かたと看かた (107)毒のある植物と殺虫剤

ハイキングの機会が増えてきました。ガーデニングが趣味の方も多いことと思います。
ところで、園芸店で売られている植物・庭木にも、口に入れると危険なものが結構ありますので、ご家庭で触れる機会の多いものをいくつか取り上げてみます。
参考:「図解 猛毒植物マニュアル」 和田 宏 著 同文書院 1998年

ケマンソウ (別名 タイツリソウ)
有毒成分のビククリンは、草全体にあり、けいれんや心臓麻痺を起こします。

トウダイグサ (灯台草 ポインセチアもこの仲間)
葉に傷をつけると出る白い乳液(ラテックス)に毒があり、嘔吐・下痢を起こします。
ラテックスはゴム手袋などの材料として利用されています。

キンポウゲ 
山野に自生する多年草で、草たけは30~60cmになります。毒成分のラナクリンは、皮膚につくと皮膚炎を起こし、また口にいれると下痢・嘔吐などを起こします。

ニンジン (セリ科)
食卓でおなじみのニンジンですが、硝酸塩をふくむため、乳幼児が多量に摂取すると、メトヘモグロビン血症という病気になって、呼吸困難を起こすことがあります。

クリスマスローズ (キンポウゲ科)
花期は冬。多年草。強心配糖体として知られる有毒成分サポニンは、草全体にあり、とくに根に多量に含まれ、少量摂取で利尿作用、多量では心臓に毒となります。

他にもたくさんの園芸植物・庭木が、有毒物質の宝庫なのです。
しかし、庭作業で注意すべきはむしろ殺虫剤などの化学物質の方。
参考:「薬・毒物中毒 救急マニュアル 改訂5版」 西 勝英 監修 医薬ジャーナル社 1995年

購入時に印鑑が必要な劇毒物と異なり、園芸店で簡単に入手できる殺虫剤は、少量では生命への危険性は低い薬剤が多いのですが、小さいお子さんには気をつけましょう。

ちなみに、よく使用される、有機リン系殺虫剤アセフェート(商品名オルトラン)の50%致死量は、ヒトでは不明ですが、マウスで体重1kgあたり0.5グラムです。劇物指定のダイアジノン(商品名バルサン)のヒト推定致死量は16.9g/50kg。成人で茶さじ8杯ですね。マラソン(商品名マラソン乳剤・粉剤)は、比較的安全です。

こどもの病気の診かたと看かた (108)母から子への最初の課題―突発性発疹

生後半年頃に、それまで元気だった赤ちゃんが突然、39℃以上の高熱をだすことがあります。2~4日ほどするとストンと熱は下がって、入れ替わるように体や顔、四肢にふぞろいの小さい発疹がでます。下痢をともなうこともありますが、だいたい元気です。発疹がでてもあまり痒そうに見えません。これが突発性発疹という病気です。

病原体はヒトヘルペスウイルスの6型、および7型です。一歳前では6型、お誕生日以後では7型によるものが多く、そのため2回かかる子どもさんもかなりいます。

このウイルスは、口の中の唾液腺(だえきせん)に住んでいます。血液中にはウイルスに対する抗体がありますが、唾液腺には抗体が侵入できず、安全な隠れ家なのです。

私たちは、このウイルスが血液の中にさまよいでて暴れることのないよう、唾液腺に閉じ込めているのですが、唾液中には、おしゃべりするたびに出たい放題。

すると赤ちゃんはどうなるでしょうか? お母さんやお父さんが「うーん、かわいい、食べちゃうぞー」と、ホッペをスリスリするたびに、ウイルスは赤ちゃんへ!
しかし、赤ちゃんの血液中には、胎盤を通してお母さんから譲り受けた、ウイルスに対する抗体があるので、ウイルスは撃退され、なかなか発病しません。

ところが、虎の子の抗体も、生れた日から目減りを始めて、毎月半分ずつになります。ウイルスをブロックできなくなるまで抗体が減った時点で、ウイルスの勝利!
父・母、ジジ・ババ、兄・姉のどなたが犯人かは分りませんが、日々のブチュブチュ攻撃にさらされ続けた赤ちゃんも、刀折れ矢尽き果てて降参です。ハツネッツ~!

さて、この突発性発疹という病気の意味をよく考えてみましょう。
麻疹(はしか)や風疹に比べると、これははるかに合併症の少ない良性の病気です。
長い人生にめぐり合うはずの、たちの悪い感染症を想像してください。
それらの多くは、高熱だけでなく、いろいろな合併症を伴い、危険性が高いのです。

赤ちゃんがそれらの感染症と戦って、毎回勝利を得ていくためには、39℃や40℃の高熱が3日くらいつづいても、自力でクリアーできる実戦経験がないと大変ですね。

つまり、突発性発疹という病気は、「発熱期間が3日間限定の高熱体験版」なのです。
しかも出所は母親(もしくは家族)。素晴らしい人体の仕組みだと思いませんか?

最近になって、ヒトヘルペスウイルス6型が、慢性疲労症候群の原因の一つではないかと推定されるようになってきました。ウイルスを唾液腺に閉じ込め続けることに失敗すれば、それが神経系をかく乱しても不思議ではありません。この仮説が事実なら、慢性疲労症候群は、免疫システムの異常による病気として位置づけられるでしょう。

あとがき

ようやく春めいてきました。冬が厳しかった分だけ待ち遠しさもひとしお。ちびっ子たちも体験学習をつんでどんどん立派になっていきます。新緑とともに人も輝く季節ですね。

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