ふくろうブログ

2003.09.01 ふくろう通信

一木こどもクリニック便り 西暦2003年9月(通算81号)

朝晩冷え込むようになってきました。日が暮れると草木の間から色々な虫の鳴き声。店頭には秋の味覚が並びます。民家の庭先から金木犀が香り始める頃、校庭では運動会の練習でチビッ子たちの歓声が響きます。疲れながらも、大きく成長する秋ですね。

こどもの病気の診かたと看かた(121)少年事件と大人社会の病理 その2

長崎市の中一少年による幼児誘拐殺人事件で、少年の精神鑑定結果が公表されました。

医学的な診断は、「高機能広汎性発達障害」。広汎性発達障害というのは、自閉症のことですが、程度がさまざまなので、自閉症スペクトルとも呼ばれます。
高機能というのは、知的遅れがないという意味です。

自閉症(=広汎性発達障害)には、三つの共通した特徴があります。

① 社会性の発達が遅れている。自分の体験と相手の体験が重なり合わない。
 そのために、相手の心、考えていることが読めない。

② 言葉の発達が遅れるため、コミュニケーション(相互的会話)が障害される。
 オウム返し。疑問文への答えが得られない。質問「お茶飲む?」→答え「お茶飲む?」

③ 想像力の発達が遅れる。情報の取捨選択が困難らしく、雑然とした情報の混沌の中にいるため、意味が見出せた特定の情報に固着し、こだわりが生じる。

これら三つの特徴のうち、②コミュニケーションの障害が非常に軽いものを、アスペルガー症候群(または、アスペルガー障害)と呼んでいます。
長崎事件の少年は、広汎性発達障害あるいはアスペルガー症候群と報道されました。

この病気と事件の原因とに直接の因果関係はありません。アスペルガー障害であれば、事件の加害者になるよりも、むしろ多くの不利益を受ける側になりやすいのですから。

しかし、この病気がスポットライトを浴びたことを機会に、事件を離れて、この病気への正しい理解を促す意味から、寄り道をして、この病気を考えてみたいと思います。

アスペルガー障害の人は、知的障害がなく、コミュニケーションの障害も軽いのですが、社会生活の上ではとても大きなハンディを背負っています。
そのハンディとは、言葉の裏の意味を読み取れない、相手の心を読み取り、同じ感情を共有することが困難、こだわりが強くて同じ行動をくりかえすなどの行動特徴です。

「皆が読む本だから、大切に扱おうね。書き込んだり汚したりすると、本も泣いてるよ」と掲示すると「本が泣くなんて、そんなことあるはずがない」と受け取られるでしょうし、「嬉しくて天にも舞い上がる気持ちだった」という言葉も理解が難しい。
これらのハンディはなかなか分りにくいものですが、児童精神医学の専門家や、この病気を診る機会の多い小児科医は、入学前にこの病気の印象を持つことができます。

アスペルガー障害は、先天性の脳の機能異常ですから、一次的障害であるこの病気そのものを治すことは、残念ですが、現在の医学・医療をもってしてもできません。

しかし、学校や社会生活をより良く過ごすという観点からは、一次的障害への周囲の無理解や不勉強によってもたらされる二次的障害を防ぐことが、より大切になります。

目の前のちょっと変わったこどもを、それと知らず、不適当に対応し続ければ、私たちはいつか、彼らに不利な二次的障害の発生に一端の責任を負うことになるでしょう。

幼稚園や学校では集団に加われず、孤立しがちです。横一線の学校という場をようやく卒業して社会にでれば、職場で、「ちょっと変わった、人づき合いの悪い存在」と目をつけられ、不景気の世の中では、はじめにリストラされる確率も高くなるでしょう。

アスペルガー障害は、学校や企業で、もっと知られてよい病気です。
長崎事件の少年を擁護するつもりはありませんが、200人から250人に一人の比率で存在すると推定されるこの病気の多くは、見逃されている可能性が高いのです。

大切なことは、この病気を早期に診断し、早期に適当な治療・教育へと導くことです。
この障害をもったこどもたちが、未診断で、未治療のまま、周囲からの絶えざる誤解と無理解の末に、悲惨な犯罪に関わるようになることだけは何としても避けたい。

この病気のこどもを抱えるご家族は、外に出せない悲痛な思いに耐えているはずです。
(次号につづく)
参考:アスペ・エルデの会ホームページ http://www.as-japan.jp/j/index.html

巷野先生は、かつてこの通信でもご紹介したことがあります(2000/8:通算44号)が、「NHKラジオ健康相談」で長い間、電話による育児相談を担当されてこられた先生です。のんびり穏やかな語り口が大好評。参加費は無料です。託児も可能です(300円)。

美味しいお茶とお菓子、そんなものは何もございませんが、質問の時間はあります。
子育てで悩んでおられるお母さん方だけでなく、こどもさんの問題に関心のある方、保育園・幼稚園・保健所などにお勤めの方々、時間の許す限り参加して下さい。

あとがき

10月1日からインフルエンザの予防接種の予約受付を開始します。接種開始は10月16日(木)午後からです。

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