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インフルエンザ

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1月中旬からインフルエンザらしき患者さんが増加し、第一週は21名、第二週27名、第三週90名、第四週165名です。インフルエンザで注意を要するのは、入学前の乳幼児と高齢者、他に何らかの病気(基礎疾患)を持っている方です。これらの方々では、合併症をおこしやすく、重症化することがあります。体力のある人でも、食欲低下と高熱でしばしば脱水症を起こします。

脳の発達が完成していない6歳以下の幼児では脳炎・脳症になることがあり、また高熱のために、しばしば熱性けいれんをおこします。普通かぜの熱性けいれんとちがって、インフルエンザによる熱性けいれんは自然に止まらないことがあり、生命の危険や後遺症を残すことがあるため、数分以内に止まらなければ救急車を手配する必要があります。さらにインフルエンザでは、6歳以上でも、これまで起したことのない人でも熱性けいれんをおこすことがあります。

けいれんが長く続くものをけいれん重積(じゅうせき)と呼びますが、インフルエンザの熱性けいれんでは、それが熱性けいれんの重積なのか、それとも脳炎あるいは脳症なのか区別が困難なので、入院して検査と治療が必要です。15分以上つづく場合は危険であると考えてください。 かつて熱性けいれんを起した経験のある子どもさんでは、インフルエンザ流行時に発熱したら、ただちにジアゼパム座薬(けいれん予防薬、市販名ダイアップ座薬)を使用しておきます。
 

高齢者ではインフルエンザの時に肺炎をおこしやすいのですが、高齢者の肺炎はかならずしも、症状=高熱+咳、とは限りません。いきなり意識障害(うとうとする、呼びかけに応えない)、食事をとらなくなる、という症状が多いのです。とくに寝たきりのお年寄りは食べなくなったら重症です。また高齢者はもともと細胞内脱水があり、発熱による脱水があると判断されても、急いで点滴をすると危険な状態になりやすいので、ゆっくり点滴をするのが原則です。

さて昨年からA型インフルエンザの治療薬として認められた塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)という薬ですが、これは中枢神経(ちゅうすうしんけい)の病気であるパーキンソン病の治療薬として使われてきたもので、中枢神経に薬が集まるという特徴があります。そのため、脳が未完成の6歳以下の幼児に使いますと、薬によるけいれんを起してしまうことがあります

インフルエンザに限らないのですが、高熱の病気の時には、「なかなか熱が下がらないけれど解熱剤(げねつざい)を使ってはいけないのか?」というご質問をしばしば受けます。39℃や40℃という高熱では、脳みそが煮えて湯豆腐になるのではないか?という恐怖心があるようです。

インフルエンザ

脳は低温には強いが高温には弱いので、脳を守るためには、脳の熱を上げないことが大切です。そこで熱がでると、脳は自分を守るために血液の流れを速くして回転率を上げ、どんどん脳の熱を血液に渡そうとします。水分をとれば血液のボリュームが増えてサイクルの回転が上がり、熱はオシッコと汗に移ります。しかし解熱剤(げねつざい)は、血液の流れをゆっくりにします。脳の熱をくみだす能率が落ちることになります。解熱剤のマイナスはそれだけではありません。

インフルエンザのように高熱が長くつづく病気では、からだ中で、多くのメールやファクスが飛び交います。臓器や細胞同士が情報交換をしているからです。これらのメールやファクスをひっくるめて、サイトカインと呼んでいます。サイトカインの中には、全身の血管の内側をタイルのようにおおっている内皮細胞(ないひさいぼう)を傷つけるものがあります。 とくに細い血管の内皮細胞が傷つきやすく、これを細小(さいしょう)血管障害と呼びます。

細小血管障害がからだのあちこちで起こると、血液のスムーズな流れがとどこおり、さらにサイトカインが増発され、さらに血管障害が拡大し…と悪循環が連続します。血管は全身の臓器にあるわけですから、これは多臓器不全(たぞうきふぜん)の発生につながります。まだウイルスの勢いが強いときに、あえて血液の流れをゆっくりにするような治療は危険性が高いのです。

さて、解熱剤(げねつざい)の中でも、サリチル酸製剤と呼ばれる一群の薬(アスピリンなど)は、細小血管の内皮細胞障害をおこすことが疑われています。また肝細胞や脳細胞の中のエネルギー工場と呼ばれるミトコンドリアも障害します。つまり、これらの薬はインフルエンザウイルス(および水痘ウイルスも有名)と協同で、からだに悪い作用をすることになります。ウイルスと薬の共同作用で、多臓器不全が起こるのです。これをライ症候群とよび、怖れられています。

市販のかぜ薬とよばれる薬の多くは、これらサリチル酸製剤を使用していますから、一昨年より、15歳未満ではインフルエンザの時には使用禁止になりました。しかし、サリチル酸製剤以外の薬でもメフェナム酸(ボンタールなど)やジクロフェナック(ボルタレンなど)といった他の多くの解熱剤(げねつざい)も要注意です。現在、6歳以下の乳幼児に使用しても一応安全であろうと合意されている薬は、アセトアミノフェン(アンヒバ、カロナールなど)だけです。

解熱剤(げねつざい)を使わないで体温を下げる別の方法として、漢方薬の麻黄製剤があります。麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)が代表です。これは汗を出させます。しかしこれらの漢方薬をのむだけではあまり汗はでません。必ず大量の水分といっしょにのまなければいけません。大人で1日2リットルを目安にします。とにかく汗とオシッコを出し続けましょう。

インフルエンザでは、まれに、ウイルスにより心臓がやられることがあります。心筋炎という状態で、インフルエンザの合併症ではもっとも予後の悪い状態です。乳幼児だけでなく成人でも起こります。この場合には、とにかく顔色が悪い、手足が冷たい、ぐったりする、という状態になります。高熱でも顔色や唇の色があかいときには問題ないのですが、青くて目つきがうつろで、からだ全体がひんやりし、冷や汗がでている時には注意が必要です。入院治療が必須です。インフルエンザの心筋炎では、必ずしも発熱がはっきりしないことがあるのです。

いままで元気だった人が急にぐったりして、顔色が悪く、手足もひんやりして元気がない、というような時には、発熱のあるなしにかかわらず、急いで受診してください。熱そのものを過剰に心配するよりも、元気がない、ぐったりしている、という方を心配するカンが大切です。

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