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漢方薬について

例年ゴールデンウイークが終わった頃から、朝なかなか起きられない、だるい、きつい、というような訴えのこどもたちが、増えてきます。このこどもたちに共通している症状は、午前中は調子が悪いのに、夕方くらいから元気になってきて夜はいつまでも目が冴えているという深夜族パターン。その他にも、乗り物酔いしやすい、立ちくらみがおこる、よく腹痛や頭痛を訴える、などが目立ちます。だいたい高学年児童や中学生では、4%くらいがこういう傾向にあります。中には、遅刻を重ねてだんだん不登校になっていくこどももいます。

小児科ではこのような状態を「起立性調節障害」と呼んでいます。この病気のこどもたちは、寝転んでいるときは何も起こらないのですが、急に立ち上がったりすると立ちくらみで失神したりします。いわゆる低血圧の体質です。心臓やその他の内臓には異常ないのですが、血圧をベストコンディションに自動調節するメカニズムがトロイらしく、一定の姿勢をとり続けることが困難で、絶えず姿勢を変えるという特徴があります。

こういう体質のこどもさんは、日ごろ元気でも、はっきりした原因もなく突然に体調を崩すという傾向があります。それも遠足、運動会など行事の後に目立ちます。また両親のどちらかが低血圧の体質のことが多いのです。もしもご夫婦のどちらかがそのような体質であるならば、こどもさんが高学年になる頃には、注意しておいたほうがよいでしょう。 この病気には、薬用人参を配合した漢方薬が有効のことが多く、また血圧低下を防ぐ錠剤もあります。

漢方薬というと、なんとなく副作用がない、という安心感をもたれる方がおられるようです。また、漢方薬は慢性の病気にはよいが、急性の病気には使えないのではないか、と誤解している方もおられます。もちろんどちらも正確ではありません。副作用のない薬などというものは本質的に存在しないし、またどんな薬でも漫然と使用すべきものではありません。 またインフルエンザなどの急性疾患に使える漢方薬もあります。からだの自然の反応力を損なわないように病気をコントロールしようというのが、漢方のそもそもの発想です。

漢方薬は、植物性の原料と動物性の原料、また一部鉱物(石灰石など)からなっていますが、原料のほとんどは、植物性生薬です。薬用人参の主成分であるサポニンなど、からだにとって、よいはたらきを示す物質でも過量摂取すれば害がでますし、薬の効き目も各人各様です。

同じ人でも、バイオリズムに応じて、同じ薬が効きすぎたり効き足りなかったりします。ですから病人の体力に応じた使い方をすれば、副作用がでないように、あるいはなるべくでなくて済むようにできます。もちろん合成新薬でも同じことがいえるのですが、漢方ではとくに、その病人の体質を診ることに力を注ぐのです。

ところが、漢方薬を原料から調合するのはたいへん手間ひまがかかるので、最近は有効成分を抽出してフリーズドライ状の顆粒にした、エキス製剤が主流になっています。私のクリニックで処方するのもほとんどが、これらの調合済み既製品です。だいたい1回に内服する量が、1包あたり2.5グラム、3.0グラムのどちらかになっています。

成人ではそれらを1日3回内服するのが普通のやり方ですが、こどもさんの場合には、1日2回あるいは1回にします。また1包を2回、3回にわけることもあります。漢方薬は微量成分の集合体で食事の内容に吸着されやすいため、食後を避けて空腹時に服用するのが効果的です。たとえば1日3回内服の場合には、起床直後、午後3時頃、就眠前などです。

さきほどの「起立性調節障害」の場合ですと、起床予定時間の30分くらい前に、リズミックという錠剤を1錠、寝床の中で内服させます。温かい牛乳などで飲ませると、吸収が早くて、効果が早くでます。そのまま放置しておくと30分後くらいには、起きてきます。 洗面を済ませたら、ただちに「半夏 白朮 天麻湯 (ハンゲ ビャクジュツ テンマトウ)」 1包を服用します。

半夏(ハンゲ) というのは、サトイモの仲間で、ホモゲンチジン酸やエフェドリンが主成分です。主な作用は抗ストレス作用、抗炎症作用などです。公式スポーツ前にサトイモをたくさん食べると、ドーピング検査にひっかかることがありそうですが、これはサトイモに含まれるエフェドリンのため。白朮(ビャクジュツ)というのはキク科のオケラの根茎で、主成分はテルペノイド、主な薬理作用は抗ストレス作用です。天麻はラン科のオニノヤガラの塊茎です。主成分はバニリンで、鎮静作用があります。その他「半夏 白朮 天麻湯 (ハンゲ ビャクジュツ テンマトウ)」 には、人参をはじめ全部で12種類もの生薬が含まれています。そのどれもがいろいろの薬理作用をもっているのですが、あるものはそれぞれの作用を打ち消し合い、あるものは高め合うように配合されていて、ずっと服用しつづけていると、「元気をださせつつも、ここぞという場面ではあわてずさわがずに底力が発揮できる」という働きを示すのです!(ホンマカイナ?)

起立性調節障害の子どもさんのいるご家庭では、毎朝その子を起こすのが一苦労です。朝の時間はどこの家庭でも戦争状態だと思うのですが、「とにかく朝起こすのが大変、なんど声をかけても返事だけしかしない、朝食抜きで、遅刻スレスレで飛び出ていきます。」 そんなお母さん方の嘆きをしばしば聞きます。

不思議なことにこの病気、日曜日などレジャーのための早起きならスンナリとできます。楽しいことを夢みて眠りにつくと、早朝からノルアドレナリンがでてきて、神経の命令が筋肉にスムーズに到達するのです。 でも明日は朝礼がある、いやだなあと思って眠りにつくと、翌朝は首から下が麻痺状態です。「リズミック」や「半夏 白朮 天麻湯 (ハンゲ ビャクジュツ テンマトウ)」は、このノルアドレナリンの分泌をさかんにしてくれるのです。朝から不機嫌で戦争状態のオタク、これらの薬を少し試してみてはいかがでしょう。

あんなにグズッテいたお子さんが、アーラ不思議、「行ってクルケンネー」と今日から大変身。 漢方薬は、もしも当たれば、信じられないくらいに体質と性格まで変わることがあります。きっとお子さんのクオリティーオブライフ(日常生活の質の高さ)が改善されることでしょう。 もちろんこどもさんだけでなく、大人の方の同じ症状にも有効です。

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