私は小学校1年生の時、給食用のお湯を右肩から浴びて腕全体にやけどを負いました。熱湯がカーデガンに沁み込んで広範な傷になりましたが、居合わせた6年生が井戸水で着衣ぐるみ冷やしてくれました。
その後、やけど専門の皮膚科医院に通院しましたが、治療内容はしぶ柿のあく汁を毛筆で塗るというもの。
柿にはタンニンという物質が含まれています。タンニンは、柿の葉(漢方では杜仲=トチュウ)や緑茶の主要な成分で、抗菌作用があります。皮なめしの原料ですが、やけどでただれた皮膚もなめしてくれるのです。
私の傷も、柿しぶ療法のおかげで、まったく痕を残さずに治りました。塗ると、傷は褐色→紫色→黒色と変化していくのですが、2週間すると、ぽろぽろとはがれ落ち、きれいな肌が現れました。1959年のことです。
ところで、腕一本のやけどというのは、体表面積の10%の皮膚が破壊されたことになり、これは国土に例えると、国境線の10%が無防備となったことで、その後起こる危険事態として2つのことが予想されます。
ひとつは、外敵の侵入(=細菌感染症)、ふたつめは、難民の流出(=血しょうタンパクなど大切な成分のそう失)です。タンニンの抗菌作用は前者に、なめし作用は、傷口を小さくすることで、後者に有効なのです。
やけどの治療で大切なポイントは、
①最初に30分間、流水で冷やす。家庭や園で必ずすべき処置です。
②感染に注意する。
③脱水やショックに注意(あとで突然におこることがあります)。
受傷範囲が広い場合には、必ず専門施設での対応が必要になります。こどもでは、体表面積の10%程度のやけどでも、血圧低下や意識レベルの低下など危険な状態になることがあり、注意深い観察が必要です。
やけどは障害の深さにより、3段階に分けられます。
Ⅰ度 表皮だけがやられたもので、皮膚は赤くはれます(紅斑と浮腫)。
Ⅱ度 表皮および真皮がやられ、水疱を作るのが特徴です。
Ⅲ度 皮膚が完全に破壊される。傷は皮下脂肪、筋肉、骨にまでおよび、
しばしば強いひきつれ(瘢痕)を残します。
私のやけどはⅡ度で、着衣をぬぐ時に水疱が破れ、ベロンベロンでした。もしも6年生の的確な応急処置がなかったら、毛糸の着衣で蒸らされてⅢ度にまで進行したり、受傷範囲も拡大していたはずです。今でも右腕を見るたびに、名前も知らないその先輩に感謝しています。