宗像市で、公費による7ヶ月健診がスタートして5ヶ月が経過しました。そこで今月は乳児健診について考察してみましょう。
乳児健診の場合には、検診ではなく健診という字をあてます。異常を発見する(検診)のが目的ではなくて、こどもさんが健康に成長・発達しているかどうかを「プロの目」で見て、母親(や家族)が抱えている育児上の不安に対して相談にのりますよ、というのが乳児健診の本来の目的です。
この場合の「プロの目」というのは、ただ単に病気を見る目というのではなくて、「子育てについての目利き」という意味です。
さて赤ちゃんが成人になるまでの成長・発達の過程は、決して平坦な道のりではありません。とくに人生最初の数年間には、ところどころに「節目」といえる重要な時期があります。生後1ヶ月、4ヶ月、7ヶ月、10ヶ月、1歳半、2歳、3歳、5歳、などです。下線の時期には公費での健診が実施されています。これらはkey month、key age とされています。
たとえば股関節脱臼を4ヶ月健診で見落としたら、7ヶ月健診で気づいても遅いのです。お座りのできる7ヶ月では、上半身の体重はすべて股関節にかかるため、そこがズレていれば永久的な障害を残すことがあり得る。だから股関節脱臼はどうしても4ヶ月健診で発見しなければなりません。
同様に、4ヶ月健診で首のすわりが悪い場合に、5ヶ月、6ヶ月と経過を追って観察していくと、軽い脳性麻痺の疑われるケースなどを早期から療育プログラムにのせることが可能となります。しかしこれらのチェックだけでは、検診になってしまい健診とはいえません。正常発達の観察が大切。
1歳半健診では、自由に動き回るようになっているわけですから、生物学的な個体としてのヒトの完成度を、また3歳児健診では言葉や自己表現、ごっこ遊び、基本的な生活習慣の確立など、ヒトとヒトの間の存在(人間)としての、社会化の状態を観察します。
このようにkey monthやkey ageのそれぞれで、成長や発達の達成課題があるわけですから、それらの重点項目をはずさないように注意しつつ、育児担当者である母親に具体的な助言を行う、これが健診医の仕事です。
しかし場合によっては、あまりにも細かいことを指摘しすぎて、かえって母親を不安と混乱に落とし入れてしまうこともあるのです。 たとえば乳児健診の現場で、こんな場面によく遭遇します。
「お母さん、体格がちょっと小さいですね、まあ正常範囲ですけどね。」
「停留睾丸みたいですね、まあ心配する必要はないですけどね。」など…。
このような一言で、母親(および家族)は不安になり、あわてます。 心配する必要はない、と言いながら心配の種を健診医が蒔くのです。 一人一人のこどもさんの育児について、本当に責任の持てるプロは、他ならぬ母親(家族)自身である、という大原則をここで確認しましょう。 標準よりずっと小さくても、その子なりに元気であれば問題はありません。
「かぜ」を例にとっても、「診る者」がちがえば「診かた」も「看かた」もちがう。育児は、その「ちがいのわかる母親」になれる絶好のチャンスです。こどもがどんどん育つだけではなく、親もぐんぐん伸びるのです。
乳児健診も、かかりつけ医師以外の話を聞けるチャンスだと思えば、いろいろな見解に触れることができて、また愉しからずや、となるでしょう。子育ては苦労も多いけれど、どうせ苦労するなら楽しく。必死にならない、だけど転んでもタダでは起きない。そう思うと肩の力が抜けて毎日が輝きますよ、お母さん。私も楽しい乳児健診を心がけていきます。
じつは、成長・発達上の節目は、この後も、10歳、13~14歳…と続いて、人生全体にわたるライフステージ曲線を構成していくのですが、その話題はいつか別の機会に取り上げます。